EMPOWER Project」発足当初からのコア・パートナーである、株式会社電通 酒井章さん(人事局次長 兼 電通ダイバーシティ・ラボメンバー)にインタビューさせていただきました。

「ダイバーシティ」、「インクルージョン」といったテーマに、企業やビジネスの視点で関わっておられる酒井さんだからこそ感じ取れる現代の課題、そしてEMPOWERにできることについて聞かせていただきました。

 

【電通ダイバーシティ・ラボとは?】

酒井さんがメンバーを務めていらっしゃる「電通ダイバーシティ・ラボ」とはどのような組織なのでしょうか?

「電通ダイバーシティ・ラボ」は2011年に発足した組織です。電通の企業スローガンである「Good Innovation.(社会のために良いイノベーション)」のファクターとして、今後ダイバーシティ (多様性)が鍵になるだろうという思いから結成されました。

ダイバーシティで社会イノベーションを起こし、かつそれをビジネスにするということをミッションに掲げ、「多様性溢れる社会」、「全ての人にとってのミライを形成する」ことを目指しています。

ダイバーシティを大きく4つの領域に分けており、

  1. 障害
  2. ジェンダー
  3. 多文化
  4. ジェネレーション

を大きな柱に活動していますが、この分野にとらわれない幅広い活動をしています。

まさに国連の「誰一人取り残さない」社会の実現に呼応するものだと思います。具体的にはどんな活動をしてらっしゃるのですか?

具体的なプロジェクトとしては、誰にでも読みやすいフォント「みんなの文字」、日本でのLGBTをめぐるスタンダードなファクトとなった「LGBT調査」、そのほかシニア向けの商品開発や東京都の多文化共生推進へのサポートなども行なっています。

昨年からは、コーポレート・ユニットを作り、会社の内部でもダイバーシティを進める活動を開始しました。また、働き方を変えることを目標に、「Life WorkS Project」というプロジェクトを行なっています。汐留の企業・行政・NPO連携を通して、越境学習など、ライフとワークがつながるような取り組みもしています。

Life WorkS Project
「働く」はこれから、どんどん「生きる」に近くなる。
自分自身の夢や大好きなことを見つめ直して、それを今の仕事と重ね合わせて。
1人ひとりが、自分らしいと心から言えるこれからの働き方を語り合い、仕事のカタチをデザインしていくプロジェクト。

【現代の「ダイバーシティ」をめぐる状況は?】

最近では、「ダイバーシティ」や「インクルージョン」といった言葉をよく耳にするようになりましたが、現代の多様性に関する状況で、変わらなければいけないポイントはどこだと思われますか?

見た目が女性であるとか、車イスをお使いであるとか、外国人であるとかという多様性は、ほんの一部の「見えるダイバーシティ」でしかないのです。実はその裏にたくさんの「見えない(内なる)ダイバーシティ」が存在することに意識を向けることが大切です。LGBTや精神障害や知的障害などはもちろん、例えば、企業の人事の観点からは、雇用方法や家族構成、スキル、体調といった要素もあります。

そういった中で一番重要なのはマインドセットです。一人一人が違う価値観を持っているということを理解し、認め合えるかということが何よりも大切になってきます。

そういう誰もが認め合う世界が実現して欲しいと心から思います。

そうですよね。今では世界的に「保護主義」傾向が広がりつつあります。そういう中で、限られた資源を奪い合う「ゼロサムゲーム」ではなく、多様な人たちが連携して資源を増やしていく「ノン・ゼロサムゲーム」を実現して、多様性を認め合うフラットな価値観が広がっていって欲しいと思います。

アカデミー作品賞を受賞した『シェイプ・オブ・ウォーター』のような、ダイバーシティ溢れる社会を描く作品も増えています。EMPOWERもテーマにしていることですが、文化や芸術といったソフト・パワーで世界を変えていって欲しいですね。

先ほどのお話にもありましたが、会社内での「ダイバーシティ」はどのような状況でしょうか。

会社には人格があるわけではなく、会社を構成しているのは紛れもなく「人間」です。同じ会社で、同じ制度の下で働いていると、どうしても会社の中で「同質性」が生まれてしまうため、会社が「生命体」として成長していくという面でも、一人一人を尊重する「多様性」は非常に重要になってきます。そして変化の時代である現代では、一つのスキルだけでは生きていけないと感じます。色々なスキルの柱を立て、その掛け合わせが大きいほど貴重な人材となります。そういった意味では、一人一人の個性やスキルという「ダイバーシティ」が「掛け合わせの材料」となり得ます。

「それぞれの違いが力になる世界」というテーマはまさにEMPOWERが推進している考え方ですね。

重要な考え方ですよね。昨年の「DENTSU Life Worker’s FESTIVAL」では社員一人一人が自分の持つ「得意なこと」をカミングアウトするというイベントを行いました。社員の「見えないダイバーシティ」を見える化し、それを、それぞれの個性、強みと捉えて支援していくことを進められたこのイベントは大好評でした。

EMPOWERの強みは一体なんなのか?】    

ダイバーシティに対してEMPOWERができる役割、強みはどのようなことだと思いますか?

私は、EMPOWERは「橋をかける」存在であると思っています。「見えないダイバーシティ」によって「困っている人」、「見えないダイバーシティ」によって「協力できる気持ち」がある人。そんな人々の間に「橋をかける」ことができる素晴らしい取り組みなのではないでしょうか。

どうしても今までの「当事者カミングアウト」では、協力する側が受け身になってしまいます。しかし、EMPOWERが提唱する「協力者カミングアウト」によって、誰もが主体的に考えて行動できるスイッチとなるのはとても重要なことだと思います。

また、サイコロジカル・セーフティー(心理的安全性)は日々の生活において非常に大切で、昨今では、組織や社会のキーワードになっています。自分のベスト・パフォーマンスのためには、心理的な安全が現代の緊張した世の中では必要不可欠なのです。

「マゼンタ・スター」をつけている人が周りにいたら、誰もがサイコロジカル・セーフティーを保ちながら過ごせる社会を実現できるのではないかと思います。

これからのEMPOWERに期待することはどんなことですか?

先ほどのサイコロジカル・セーフティーの話にも繋がるのですが、「知っている」こと、そして、「正確な知識」は非常に重要です。例えば、日本人のがんの発症率はどれくらいか知っていますか?

−1530%くらいでしょうか

実は、約50%なんです。多くが初期の段階で見つかりますし、治療方法も沢山あり、仕事を続けながら治療できる場合が多くなりました。しかし、治療を始める前に会社を辞めてしまう人が4割もいるそうです。正しい知識をもっていれば、仕事を続けるかもしれない人たちが多く含まれています。

そんなに!!

そうなんです。がんと宣告され、頭が真っ白になり、不安などもあり、会社を辞めてしまわれる人も沢山おられるそうです。正確な知識があれば、サイコロジカル・セーフティーを保つことができたかもしれませんが、「知らない」ことで、異なる決断に至ることもあります。だからこそ、特に、精神障害・発達障害やLGBTのことなど、「見えないダイバーシティ」に関する正確な知識を広げ、世の中の人々に知ってもらうという活動も、ぜひ更に広めていって欲しいと思います。

最後にEMPOWERへの応援メッセージをお願いします!!

世界は変えようとしなければ絶対に変わりません。

EMPOWERで世界を変えてください!!!!

社会のダイバーシティに関わるお話から、会社内でのダイバーシティの重要さをめぐるお話まで、大企業に長年勤めておられる酒井さんだからこそお聞きできるお話がたくさんあり、貴重な時間を過ごすことができました。

これからも「EMPOWER Project」は電通ダイバーシティ・ラボと緊密に協力しながら、プロジェクトを進めていきたいと思います。酒井さん、この度は心からありがとうございました。